妥協婚 2
雨のサタデーナイトにトンネルを歩く一人の女がいました。
傘も雨具も何も持たず、サンダルは片方のみしか履いていませんし、
ワンピース赤い色が無造作に飛び散っています。
散らかった髪の毛で顔の半分は覆われ、額からは赤いものが流れていて、
誰が見てもおだやかではない様子です。
ハ町-オ町道に徒歩でやってくる人など普通はいません。
そこに普通ではない格好の女が一人でいるのですから、それはもちろんお化けです。
遡ること数か月前か数年前・・・
いつであったかは些細な事なのでこの際どうでもよいでしょう。
夏のある夜、彼氏が運転する車の助手席に乗っていたその女は、
運転する男の不注意により、オ町側の急こう配の峠道から崖下へ
車ごと転落してしまったのです。
とても高いところから落ちたので、残念ながら生きて帰ることはできませんでした。
車は崖から落ちながら何度も回転し、最後は岩に叩きつけられて屋根が
つぶれてしまいました。
若さゆえシートベルトをしていなかったので車内で体をぶつけたり、
割れたガラスで顔は切傷だらけです。
人間界から旅立つと普通は成仏するものですが、
心に引っかかるものがあると成仏できないのが世の常です。
荒い運転で事故を起こした彼氏に対して、
プンプンに怒っていたその女は成仏できませんでした。
それ故、現場であるトンネル付近で彷徨うように暮らしていたのです。