古今東西よくある話、十番煎じの童話集

小学4年生からの読み物

それは悪いソバだった 22

「そっかぁ。でさ、烏丸はなぜ僕に逢引のことを知らせたんだい?

烏丸にはメリットなんて無いのに」

「そう、メリットは何も無いわね。

ただ、逢引されているかもしれないソバオを、見過ごせなかっただけよ」

「そうだったんだ。助かったよ、烏丸。ありがとう、何かお礼をしたいな。

何か欲しいものはないかい?」

「ないわ」

「えっ?何もいらないのかい?」

「何もいらないよ、私は」

「本当にいらないのかい?この世に見返りも求めずに動く者がいるのかい?」

「いるのよ。それが世の中ってものなのよ」

 

それは悪いソバだった 21

「あれは作り話だったのか・・・それなら赤ちゃんの両親はともにソバ。

となればソバエットも僕も完全にソバ。

ってことは僕が勝手に遺伝子がどうのなんて仮定して、

それを元に話をしていたのか。間抜けだなぁ僕は。

ん?じゃあなんで赤ちゃんは悪魔の実になったんだろう?

あの赤ちゃんたちは僕とソバエット、二人の赤ちゃんかい?」

「それはないわ、赤ちゃんは結婚してすぐ生まれたんだから、

彼女は結婚前からソバオ以外のソバと逢引していたってこと。

君は利用されたのよ。

それと悪魔の実は、ただの成長の早い赤ちゃんだね。

思春期になるとグレるのよ。悪魔でも何でもないのよ。

子供はだいたいがそんなものなの、君たちが知らなかっただけ。

でね、成長が早くて大きい実は目立つでしょ。

だからすぐに大きな手の主に発見されて収穫される。

残りの赤ちゃんは収穫されずに済むから、そのまま畑で過ごして、

ちょうどよい時期に芽を出してソバとして大きくなれるんだよ」

「そうだったのか。ねぇ、烏丸は作り話がバレるとは思わなかったの?

今話してくれたことは、すぐにバレるようなことだと思うけど・・・」

「バレても構わないわ。あたしは≪噂で聞いた≫と言ったはずよ。

嘘がバレたら、 ≪その噂は間違いだった。ごめんね≫ ということで済むのよ」

それは悪いソバだった 20

「ふ~ん、そうだったんだ。・・・あっ、聞きたいことがあったんだ。

烏丸、君はなぜ悪魔の実の話をしたんだい?

あんなことを話せば僕が、⦅ソバエットと小麦との逢引⦆という誤った疑い 

をかけるじゃないか」

「それが目的だよ。疑惑の相手が誰であろうが、

ソバオが彼女に疑いの目を向けさせたかったの。

自分が疑われていると彼女が気づけば、逢引をやめるかもしれないでしょ」

「彼女の逢引のことは君は知らなかったはずなのに、

なぜ疑うように仕向けたんだい?」

「女の勘よ。彼女が逢引しているって感じたの・・・

女はそういうの分かるのよ。

でも証拠はないから断言できないし、直接的なことも言えないから、

噂話という作り話をして知らせたの」

烏丸は一言付け加えました。

「それとね、ソバと小麦が逢引しても花粉は混ざらないわ。

だから赤ちゃんは生まれない。

混ぜたければソバ粉と小麦粉になってからの方が都合がよいでしょ。

君たち世間知らずだから、それを知らなかっただけ」

それは悪いソバだった 19

数日後、ソバオのところに烏丸が来ました。

「噂でいろいろ聞いたよ。ソバオ、君は元は小麦だったんだね」

「実はそうなんだ。小麦だったんだけど、ソバになりたくてここに来たんだよ。

それより僕はショックだったよ。逢引する人がいるなんて」

「そういう人もいるの、それが世の中ってものよ。

ところでソバエットを紹介したのって蜂たちでしょ?

蜂は適当なんだから、紹介してもらうのはよしたら?

結婚相手ぐらい自分で探しなよ」

「なんで?あの二人は気のいい蜂だよ」

「性格はいいのよ。でも蜂は蜜が欲しくて仲人するの。

花たちは結婚すると蜜を出すから、蜂たちはそれを狙っているのよ。

蜂にとっては君の結婚相手は誰でもいいんだよ」

「ってことは彼らは僕を利用しただけなのかい?蜂って悪い奴なのかい?」

「蜂たちは基本的には気のいい奴よ。

彼らは花たちが結婚すること自体を純粋に喜んでいる。

その一方で花たちの蜜を飲むために仲人もしている。

そういうものなの、世の中ってのは」

それは悪いソバだった 18

ソバエットは沈黙したままでした。

それは答えでした。

化けの皮が剥がれたソバエットは沈黙の後、顔に悔しさを滲ませながら

「時が経てば誰でも変わるじゃない。それのどこが悪いのよ」

と開き直りました。

 

ソバオは優しく言いました。

「逢引の事実はすぐに村に広がるよ。君はみんなから白い目で見られるはずさ。

この村に居場所はなくなるんじゃないのかな?

・・・ソバエット、引っ越し先は決まったかい?」

項垂れて膝から崩れ落ちるソバエット。

そして母親譲りの外来語を使い、日本語訛りで地面に一言吐き出しました。

「いっつ そーば っど (It´s so bad )!!」