古今東西よくある話、十番煎じの童話集

小学4年生からの読み物

イカ

昔々あるところに男の子がいました。

 

その子の家では、時々はイカの煮つけを作っていました。

男の子はその料理をが好きでした。ただ、イカを選びながら食べていました。

好んで食べていたのはイカの足。

輪切りの胴体や、ピラピラのえんぺらには目もくれず、彼が狙うは足のみでした。

彼には兄弟が何人もいて、いつもみんなで足の取り合いをしていたので、それが一番お

いしいものだと思っていました。 

人気があるものが良いものだと、思い込んでいたのです。

 

そんな男の子も少し大きくなりました。彼はいつのまにか、えんぺらもおいしいと感じ

るようになりました。

「足こそがイカの醍醐味だと思っていたけど、えんぺらもいけるなぁ」そんなことを

思う15歳に育っていました。色々なものを食べて視野が広がったり、

好みが変わったという事でしょうか?薄くて張りのあるクールビューティー的な

えんぺらに目覚めたようでした。

 

イカはどう思っていたのでしょう。足とえんぺらは食べてもらえるけど、

輪切りの胴はあまり好かれていないようです。胴は「あたしの方にも振り向いてほしい

のに・・・。でもあたし地味だし・・こんなあたしの想いはとどかないわ、きっと」

と思っていたかもしれません。

 

それから随分と年月が経ち、男の子は32歳になっていました。

もう男の子なんて呼べる年齢ではありません。

少し遅いですが、仮に名前を鉄夫とします。

鉄夫はすっかり味覚が変わり、いつの間にかイカの胴体も食べるようになっていまし

た。「この肉厚で噛み応えのある胴体がうまいんだよな。噛むほどにイカの世界が広が

って・・酒のあてにはたまらんよ。」と独り言まで聞こえてきました。

 

鉄夫はようやく自分の本当に好きなものが分かるようになったのでした。元来鉄夫と

いう男はよく噛んで食べる派でした。胴体を好んで食べる素養はあったのです。

しかし、人気があるからと足を狙ったり、薄くて華奢なえんぺらに現を抜かしたりして

、自分に本当に相性のいい胴体を軽んじていたのです。

 

若い頃はそんなこともありましたが、今は胴体の方と相思相愛となり

末永く幸せに暮らしたのでした。

 

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…いちおう、イカ

 

胴体をおいしいと思い食べ続け、幸せに暮らしつつも、

ある時、鉄夫はふと思いました

胴体の輪っかを食べるのなら、煮つけではなくてフライじゃないのか?と。

そしてイカリングを食べてみたら、これこそ美味。

自分が探し求めていたユートピアはこれだったと悦に入り、そして

そのままさらに幸せに暮らしました。

 

 

~Road to the IKAーring~