古今東西よくある話、十番煎じの童話集

小学4年生からの読み物

憧れのファッション

昔々ある島国に、男の子がいました。

ある日テレビを見ていたら、かっこいい俳優がカッコよく背広を

来ている姿が映りました。男の子は感銘を受け

「これだっ!僕が求めていたものはっ」と声を上げました。

その日から俳優の服装を真似することになったのですが、

パンタロンは穿かずにパンツ一丁でした。

母親は「みっともないからお止めなさい」と言いますが、

父親は「すぐに飽きるだろうから、好きにさせておこう」と言います。

男の子は毎日パンツ丸出しで過ごしていきました。

 

 

 

f:id:monokuroten59:20210711103224j:plain

探偵のやつ

 

そんな男の子を見て、年齢の近い少年たちは

パンタロンを穿かないファッション を真似するようになりました。

大人たちは「子供たちのすることだ、放っておこう」と言います。

女の子たちは「やーねー」と言いますが、無関心です。

しばらくすると、青年たちに飛び火しました。

「パンツ一丁、いいよね。楽じゃんか」と言い合い、

あっという間にヤングのファッションとなります。

そんなものですので、今度は青年たちと同年代の女性も感染しました。

パンタロンを穿かないと涼しいわね」と言います。

するとそれを見た女の子たちは

お姉さんたちがしているんだから、あの格好がナウいんだわ」と思って

真似をしするようになったため、

『青少年がパンツ丸出しの国』へと変わりました。

彼らの言い分はこうです。

「この国の気候に背広なんて不適切だ。

こんな暑い国で背広を無理をして着るなんてどうかしている」

パンツ一丁ファッションは流行を超え、若者たちの定番の服装となりました。

大人たちは苦言を呈していましたが、パンツ感染は止められず、

個人のレベルでは手の施しようがないまま時間が過ぎました。

 

半年後、議会が動き出しました。

この島国の人々は背広に価値を感じていて、

大人たちはそれを正装と考えていたため、

「品がない!なんとか止めさせなければ」ということなのです。中には

「目の保養にもなるし、冥途の土産にもってこいじゃの。

わしゃぁ、このままの方がええのう」という鼻の下伸びた人もいましたが、

「棺桶に近い奴なんかほっとけ」と、相手にされませんでした。

真面目な大人たちは議会で法律を新たに制定することで対処しました。

 

新たな法案「島全体保養地法」はすんなり可決され、

あっという間に施行されました。

内容は、この島国全体を一大レジャー施設にするというものです。

元々観光産業が盛んでしたので、さらに力を入れることになりました。

建物の整備、自然環境の保全などハード面については行政が担います。

民間人は『観光地に適した服装で過ごすことで、観光客に対して

島国っぽさを演出し魅せる』という方針になりました。

 

それ結果、若者たちのパンツ一丁ファッションは市民権を得ました。

水着と大差ないので、その格好で過ごしていても問題がないのです。

むしろリゾートっぽさがあって適しています。

大人たちはどうなったかと言いますと、意外にもそのファッションを気に入り、

徐々に広まっていきました。

パンタロン無しは過ごしやすくて、なかなか良いわね」

「なんでもっと早く気が付かなかったんだろう」

「癖になるのぅ」

「見馴れてしもうて鼻の下が元に戻ったわい」

なんて声が聞こえてきました。

 

島国は大人も子供も軽装となり、観光に訪れた人々にも好評で、

観光需要も伸びたため島国の経済活動は活発でみんなウハウハでした。

 

 

ある日、若者たちが集まって話をしていました。

「暑いこの島では、パンツ一丁ファッションに限るよな」

「おう、全くだ。背広なんてまっぴらごめんだ」

「あんなものが正装だなんて可笑しいよな」

「西洋かぶれのご先祖様がありがたがって着てたからな。

いつの間にやら背広が当然になったらしい」

「たかだか100年くらいの歴史しかないのにな」

「この島国にはこの島国に合った服装ってのがあるんだよ、

それがこのパンツ一丁ファッションさ。これからの文化は俺たちで作っていこうぜ」

「おう。そういえばもっと北にある島国のことしってるか?

あの国には素晴らしい伝統衣装があるのにそれを廃れさせて、

西洋背広がスタンダードらしいぜ」

「へぇー、さっさとこの島のようにすれば良いのにな」

「だよな。でも他のところのことなんて放っておいて構わんよ。

おかしなことしていれば勝手に沈んでいくんだから。俺達には関係ないよ」

「そうだね」