古今東西よくある話、十番煎じの童話集

小学4年生からの読み物

製品開発

昔々あるところに、金属加工の仕事をしている人がいました。

年齢は25歳くらいで、名前は力 力〃三(ちから りきりきぞう)と言います。

力は15歳くらいから師匠の工場へ通い、毎日一所懸命製品を作ってきました。

もう十年働いているので腕は確かです。

仕事のやり方を教えてきた師匠は小示 小(おし しょう)という名前で、

彼は近頃、力のことを一人前の職人になったと感じていました。

形の決まった物を、言われた通り作るのはお手の物になった力を様子を見て、

小示は「そろそろ自分で製品の規格を考えてみないかね?」と尋ねました。

師匠からそのような事を言われるのは仕事ができるようになったという証です。

力はそんなことを言われるなんて思ってもみなかったので、

心底嬉しくて「はい、喜んで!お師匠さん」と喜びながら答えました。

 

製品を一から自分で作れることに意気揚々としている力ですが、

小示は条件を付けました。

「ワシももう歳での、細々した加工は面倒になってきた。なるべくシンプルで、 

 簡単に仕上がるものがええのう」

そんなことを言われたものだから、

(この人は本当に職人なのか?)と訝しんだ力ですがそんなことは言えません。

「はい、喜んで。小示小さん」と答えました。

 

その日からは力の製品開発が始まりです。

それまでは師匠と弟子とで一緒に製品作りに励んでいましたが、

工房には力専用の場所が用意され、そこで一人で開発作業をすることになりました。

と言っても開発の仕事は午後のみです。午前はそれまで通り二人での作業をします。

この工房は二人で切り盛りしています。

依頼された製品作りに毎日追われているので、二人で作らなければ仕事が回りません。

力は午前中は製品作りに目一杯力を尽くし、

オイルサーディンを挟んだライ麦パンの昼食を済ませ、

少しの時間昼寝を挟んでから、午後の開発の仕事に取り掛かるという日々が

過ぎていきました。

師匠からは自由に使っても構わないと言われているので、

材料や道具があふれた専用スペースで力はいつも熱心に開発と試作をしていました。

小示はその場所へは立ち入らず、力の好きなようにさせておきました。

 

何日もたったある日、力が

「お師匠さん、ついに完成しました。見てください」と呼びに来ました。

「ほぅ、どれどれ」と期待を膨らませて専用スペースに向かった小示は

とても驚きました。

今までに見たこともない物がそこにありました。

30センチ四方くらいの薄いものが机の上に立てかけてあります。

「これはいったいなんだ?こっち側が見える出ないか」と小示は目を丸くしました。

「これは銀を薄く延ばして、まっ平らにした後ピカピカに磨き上げたものです。

 こうすれば自分の顔を見ることができます。作るのも簡単です。どうですか?」

「これは素晴らしい」小示は偽りない声で褒めました。

師匠の言葉に力は満面の笑みです。

「これはカガミと名付けたいと考えています」とちゃっかり名付け済みです。

「ほう素晴らしい名だ」と言った小示ですが、カガミを見て表情を曇らせながら

「でもこのような物は今までになかっただろう。はたして売れるのかな?」

と言いました。

力は自信をもって答えました。

「その点は心配には及びません。世の中には自惚れ屋がたくさんいますから

 売れますよ。 そうでなければ怖いもの見たさに買っていくでしょう。

 この国の人々はそんなものです」

 

 

鏡?